熊本地方裁判所八代支部 事件番号不詳 判決
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告代理人は被告は原告に対し八代市永碇町字永碇九百七十二番宅地三十二坪同所九百七十三番の一宅地百七十坪、同所九百七十五番宅地六十四坪同所九百七十三番の二家屋番号同町百二十六番の二木造草葺平家建物置一棟建坪二十四坪八合の土地建物の所有権移転登記手続を為すべし、訴訟費用は被告の負担とす。との判決を求め其の請求原因として原告は被告の相談を受け被告が所得税滞納の為八代税務署より被告所有の家財並農具類に対し差押を受けているが競売に附せられるに付其納税の為立替えて呉れる様にとの申込みに因り昭和二十四年十二月七日被告の為金四千円同月十二日金三千円、同月十八日金三千円、同月二十日金三千円、及同月二十三日金壱万四千円、都合五回に亘り合計金弐万七千円を立替え、原告被告共に立替の都度八代税務署に至り被告の所得税の為納税した、然して被告は原告に対し最後所得税を立替えた日即ち昭和二十四年十二月二十三日に至り被告所有の前記趣旨記載の土地建物を売渡代金弐万七千円と定め之を売渡し原告は右金額を以て之を被告より買受くることを契約し被告は右土地家屋の所有権移転登記手続を昭和二十五年五月三十日迄に為すことを約した、原告は右約旨に基き右履行期日迄被告の所有権移転登記手続を待つたが被告は期間経過したるも遂に其の所有権移転登記手続を為さざるに依り本訴請求に及ぶ旨陳述し被告の供述取消に対しては異議をとどめた。(証拠省略)
被告は原告の請求を棄却する旨の判決を求め其の答弁として(一)被告が税務署へ納税の為め原告から昭和二十四年十二月七日を初めとして数回に亘り合計弐万七千円を借受け(二)そして最後に借受けた昭和二十四年十二月二十三日にその金員について証書を差入れ返済できない時は被告所有の本件土地建物を昭和二十五年五月三十日迄原告名義に所有権移転登記手続をしてやる約束をしたことは間違いないが(この(二)の供述は後に被告代理人に於て取消された)(三)被告はその後昭和二十四年十二月二十五日金三千円の利息金を加えて右金員を支払つたので移転登記をしてやる義務はない、(四)尚弁済した時被告は原告に対し領収証を請求したが後で書いてやるということであつたのでその言を信用し其の時受取らなかつたが、今日迄原告からその交付がない、又差入れた証書は原告に於て紛失したということであつて返して貰わなかつた(この(四)も亦前同様取消された)と述べた、被告代理人は答弁として被告が原告から昭和二十四年十二月中前後五回に亘り合計弐万七千円を借用したことは認むるが此の借用金は被告に於て昭和二十五年十二月二十五日八代市松高農業協同組合から金参万円を借用して約定通り利息金三千円を加え三万円を十二月二十五日に原告に対し支払済である原被告間には其以上に又其以外には何らの債権債務の関係はない。本件物件について原告主張の如き売買契約はないと述べ被告の答弁事実は右の通り訂正する尚被告の「最後に借受けた昭和二十四年十二月二十三日にその金員について証書を差入れ返済できない時は被告所有の本件土地建物を昭和二十五年五月三十日まで原告名義に所有権移転登記手続をしてやる約束をしたことは間違いない」。旨及「領収証は後で書いてやるということであつたのでその言を信用してその時受取らなかつた」旨並に「差入れた証書は原告に於て紛失したということで返して貰はなかつた」、旨の各供述は錯誤によるものであるから取消すと述べ又原告が昭和二十四年十二月中前後五回に借受けた金二万七千円の借用金に対し金四万八千円の借用証書を書くことを要求したので被告は断つてその要求の翌日弁済したのである。領収証は弁済した時請求したら原告はその場で領収証を作成したが印肉がないからと言つて被告に渡してくれなかつたと陳述した。(証拠省略)
理由
昭和二十四年十二月中被告が原告から金弐万七千円を借受けたことは当事者間に争ひないが被告は同年十二月二十五日に利息金三千円を加え右借用金は支払済である旨主張し之に対し原告は未だ支払ひがない旨争うので考按するに被告本人訊問の結果並に証人米村清信の証言及同証言に依つてその成立を認め得る乙第五、第六号各証並に成立に争ひない乙第三号証及び其の成立を認め得る乙第二号証を綜合すれば被告主張通り右金二万七千円の借用金は昭和二十四年十二月二十五日利息金三千円を加え合計三万円を被告から原告に支払つて弁済されたことが認定できる。右認定に反する証人吉田国男の証言は措信できない。次に原告は本件土地建物を代金二万七千円で昭和二十四年十二月二十三日被告から買受けたと主張し被告は之を否認するので按ずるに原告が其の証拠として提出した甲第一号証は原告が其の作成者と主張する証人永水清は全然知らぬ旨証言し、被告は否認する処であるのみならず原告本人も被告の関知しないことは之を認めているので甲第一号証では原告の主張を肯定できない、他に原告主張事実を肯認するに足る証拠はない故に本件土地建物について原告が主張するような売買契約が原被告間にあつたことは到底認めることはできない、更に原告は本件土地建物について被告は昭和二十五年五月三十日迄に原告名義に所有権移転登記手続をすることを約束したと主張し被告本人は最初之を認め後で之を取消したのであるが仮に原告主張通りの約束があつたとしてもこれは弁論の全趣旨から考えてみれば前記金二万七千円の債務の弁済担保として債務者たる被告所有の本件土地建物を債権者たる原告名義に所有権移転登記を為す所謂売渡担保契約に基づくものであつて単純なる売買契約に基づくものではないと認められる。しかし被告が原告から借用した金二万七千円は既に弁済ずみであることは前に認定した通りであるから仮に認定のような左様な約束があつたとしても債権が既に消滅した現在に於ては原告は被告に対し本件土地建物について原告名義に所有権移転登記手続を求むる権利はないのである。
然らば原告主張の約束の有無その他の争点について判断する迄もなく原告の本訴請求は総て理由なく失当として之を棄却すべきものである。仍つて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。